ずっと覚えていること

夏の夜、きみと神社に行った。

 

皆とご飯を食べに行った帰りに楽しくなったあたしは違う方向へ足が向かっていて、きみは慌てながら追いかけてきた。
正確に言うと、一緒についてきてくれたんだけど。

「やめとき、やめとき」って笑いながら それでも諦め気味で一緒にきてくれた。

夜の神社についたわけなんだけど、不思議と恐怖なんてものはなかった。
きっと隣にきみがいたからだろう。
大きな木の下で並びながら座った。
今更、ドキドキなんてものはなくて心地いい安心感だけしかなかった。
でも、あたしは本当にきみのことが好きだったんだよ。

 

しばらくすると、どこからか'ポンポンポン'と音が聞こえて、あたしは神様の仕業かなあとぼんやり考えていた。

そうだったらいいなあと、楽しくなっていたから。
でも、きみは現実主義者というかクソ真面目な人間で。
いとも簡単に暴いてしまった、つまんない。

 

古くからある大地の仕組みが螺旋状態になって愉快な音が生まれてしまうんだって
別にそんなこと聞きたくもなかったけれど、ありとあらゆるものを教えてくれるきみが好きなことも事実。

妙に聞き慣れた'ポンポンポン'を背に向けて色んな話をした。
きみは「ずっと遠いところにいくよ」って笑いながらそう言った。
何でそんな笑いながらそんなことを言うのって悲しくなったけど、素直じゃないあたしは
「行っちゃえ行っちゃえ、ずっと遠くで楽しんでよ」って言い返してやった。
きみは「つれないなあ、他に何かないのか」って笑うだけ。

 

今更、何にも言えやしないってお互い分かっているくせに。

 

ふと、きみはあたしに聞いた。
「お母さんは、大丈夫?」

あたしの家庭環境は複雑といえば複雑で、父と母は離婚している
きみだけが全部知っている事実が嬉しいと思うことは秘密なんだけれど。

 

「うん、大丈夫、大丈夫だよ、でもね、やっぱり思う、お父さんにも悪いところはあった、それは分かってるよ、だけど頑張ってほしかったの、お母さんにも、お父さんにも。家族なんだから、あたしはどちらかなんて選べないんだから、どちらも責めることなんてできない、でもね、諦めないでほしかった、背を向けるなんてこと、しないでほしかった。」

 

覚えてる限りでは、こんなことを言ってたと思う、本当にうろ覚えだけど。

きみは黙って聞いてくれた。

少しの沈黙があったんだけど、徐にきみと目が合った途端、きみは泣きそうな優しい顔で言った。

 

「俺だけは、捨てないで」

 

この言葉に、あたしは何て返事をしたのか、それだけが未だに思い出せないでいる。